膝前十字靭帯損傷

1.受傷機転

膝前十字靭帯(ACL)損傷はバスケットボール、バレーボール、サッカー、スキーなどで良く発生する外傷ですが、一旦受傷してしまうと膝の機能障害が非常に大きくなります。受傷機転としてはジャンプの着地などのnon-contact injuryとタックルされた際などのcontact injuryに大別されます。ACLは関節内靱帯で(図1)治癒能力が非常に低く、一旦損傷されて断裂してしまうと、ギプスを巻いたり装具を付けたりしても元通りに治る事がほとんど期待できません(図2a)。また損傷されたACLは徐々に線維が吸収されてしまう事が多いです(図2b)。

 2. 損傷後の症状

損傷されたACLが治癒しないと膝関節の前外方回旋不安定性が残ってしまいます。典型的な症状としてはジャンプの着地や方向転換などで膝がガクッと抜けてしまう、いわゆる“膝くずれ”が発生します。この膝くずれを繰り返していると、膝関節の他の構成体である、関節軟骨や半月板が損傷されます。ACL損傷が放置されて激しいスポーツを続けていると、2年で約70%の症例に半月板損傷(図3a)が発生するとも言われています。そして厄介なことにこの半月板も軟骨性組織のため治癒能力が低く、損傷や変性がひどくなると切除せざるを得ない場合が多いです(図3b)。

そして半月板が損傷されてクッションの機能が低下すると、さらに関節軟骨が早く摩耗して老化し、変形性膝関節症という状態になってしまいます。このようにACL損傷を放置して無理にスポーツを継続していると、膝関節の機能はどんどん低下して、普段の生活でも痛みが出るようになります。

3.治療方針

ACL損傷を受傷して比較的早期の場合には、以下の治療選択肢があると考えております。

(1) 膝くずれの症状が出るのは、ほとんどがスポーツを行ったときなので、スポーツを止めるか種目を変えるなど、生活様式を変更する。
(2) 運が良いと数%の確率でACLがある程度治癒したり、あるいは不安定性が残っていたとしても筋力や骨の形状のバランスにより、あるいはスポーツの種目によっては膝くずれが発生しない場合もあるので、筋力強化などのリハビリテーションを行い装具を装着して、とりあえずスポーツに復帰してみる。
(3) 初めから適切な時期に手術を行って、ACLを再建してからスポーツに復帰する。

このうち(2)はやはり膝くずれが起きる可能性が高いのであまりお勧めできませんが、学生スポーツで引退直前の場合などは選択せざるを得ない場合もあります。また日常生活でも膝くずれが生じてしまうような症状が強い場合には、(1)も選択肢から消えます。

またACLを損傷してから時間が経って陳旧例となり、すでに膝くずれを繰り返して半月板損傷が悪化し、膝がひっかかって動かなくなるロッキングの症状が出てしまった場合も手術を避けられません。

4.ACL再建術

現在ACLの再建手術で一般的に行われている方法は、大別して2種類あります。
(1) BTB:膝蓋腱の1/3を骨付きで採取してスクリューで固定する方法、
(2) ST,STG:内側ハムストリングの半腱様筋腱(ST)のみ、あるいはSTと薄筋腱(G)を再建材料として、骨トンネルに通す方法。

いずれの方法でも関節内の操作は関節鏡視下に行う鏡視下手術が主流です。BTBは膝の安定性獲得には優れていますが、膝蓋腱の採取部に痛みが残りやすく、膝の伸展筋力の回復が遅れる場合があります。ST, STGは膝屈曲の最終引きつけ領域の力が戻りにくいと言われていますが、採取した腱はある程度再生することが判明しています。
またACLには二つの線維束がある事が従来から知られていましたが、近年の研究で二つの線維束を別々に再建する二重束再建術の方が前方安定性のみならず回旋安定性の獲得にも優れている可能性が示されています。(図4a,b, c)